第1回

教育心理学の枠組み

教育心理学はおおむね，2つのモデルを参照し，それぞれのモデルにおける変数を考慮し，また調整しながら学習成果を高めるメカニズムを明らかにしようとする研究領域と言える。一つは学習率であり，学習率は学習に必要な時間に対して実際に学習に費やした時間によって高低が生じるというモデルである（Carroll, J. B. (1963). A model of school learning. Teachers College Record, 64, 723–733.）。もう一つは適性処遇交互作用（教科書pp.100-101）である。ここではこれら2つのモデルにおける教授・学習，社会，思考・認知といった教育心理学の主要研究領域の位置づけと関係を概観する。
【事前学習】2時間
教科書pp.2-9を読んで教育心理学とはどのような学問かイメージをつかむ。
【事後学習】2時間
教科書pp.22-23を読んで発達研究法について理解する。

第2回

発達理論，発達段階と認知能力の発達

発達理論と発達段階を理解することとは，学習者のレディネスと伸長可能性を捉えることといえる。レディネスとは学習のための準備状態のこと（教科書p.136）であり，認知能力，言語能力，運動能力，社会性といった要因の組み合わせによって形成されると言える。ここでは教科書pp.14-21, 142-145の内容を概説し，発達理論，発達段階，認知発達について理解する。
【事前学習】2時間
教科書pp.142-145を読んでピアジェの発達段階説の特徴を理解する。
【事後学習】2時間
認知能力の発達について教科書p.19図1に解説を加える形で整理する。

第3回

運動能力と言語能力の発達

学校で行う学習と運動能力とは一見関係なさそうに見えるが，可能な身体の動かし方によって課題解決のありようが異なるという点で関係がある。また，思考は言語を介して行われるため，言語能力の高さが可能な思考の抽象度と密接に関連する。ここでは教科書pp.26-27, 28-33の内容を概説し，運動能力と言語能力の発達について理解する。
【事前学習】2時間
教科書pp.154-155を読んで母語の獲得について理解する。
【事後学習】2時間
運動能力と言語能力の発達について教科書p.19図1に項目と解説を加える形で整理する。

第4回

社会性の発達

学校で行う学習は一人で行うのではなく集団の中で他者とともに行うことが多い。他者との協同的な課題解決は認知能力の発達や学習成果を高めることにつながるため，その基盤としての社会性が発達している必要もある。ここでは，教科書pp.34-37, 156-157の内容を概説し，社会性の発達について理解する。
【事前学習】2時間
教科書pp.156-157を読んで中高生の社会性の概況を理解する。
【事後学習】2時間
社会性の発達について教科書p.19図1に項目と解説を加える形で整理する。

第5回

中学校・高校の教科学習のレディネスとしての発達(1)

ここまで扱った認知能力，運動能力，言語能力，社会性はいずれも中学校・高校の教科学習のレディネスである。ここでは一人の生徒は認知能力，運動能力，言語能力，社会性をどのように発達させレディネスとして携えて中学校や高等学校に進学することになるのかを，教科書p.19図1に項目と解説を加える形で整理し概略的にとらえる（グループワークを予定）。
【事前学習】2時間
認知能力，運動能力，言語能力，社会性の発達をまとめて教科書p.19図1に項目と解説を加える形で整理する。
【事後学習】2時間
グループワークの課題を完成させる。

第6回

中学校・高校の教科学習のレディネスとしての発達(2)

第5回のグループワークの内容を発表する。
【事前学習】2時間
グループワークの課題を完成させる。
【事後学習】2時間
乳幼児期から青年期の各時期における運動発達・言語発達・認知発達・社会性の発達について，自作の図表を用いて学術的知見にもとづいて説明し，中学校，高校の教師がこれらに関する知識が必要な理由を合理的に述べる。

第7回

行動と認知の変化としての学習

学習の定義は行動主義的学習観と認知主義的学習観とでは異なるが，学習者の行動が変化をうながすには両方の考え方が必要となる。ここでは行動主義的から見た学習（教科書pp.76-83）と認知主義的に見た学習（教科書pp.42-43）を参照しながら，人が一般的に行う学習と学校で行われる学習の特質を検討する。
【事前学習】2時間
教科書pp.174-177を読んで記憶と学習に関する先行知識を身につける。
【事後学習】2時間
授業内容を踏まえながら教科書pp.242-243を読み応用行動分析と行動主義的学習研究との関係をまとめる。

第8回

知識の処理，獲得と転移

教師の仕事の一つは，学習者が行う処理過程に介入し知識の獲得と再構成をうながし，概念化を経て初見の問題解決を効率的に行えるようにすることと言える。ここでは記憶の情報処理（教科書pp.44-51），知識の構造（教科書pp.52-54），転移（教科書pp.56-59）を参照しながら，知識の獲得，再構成，概念化をうながす教育的介入のありかたを検討する。
【事前学習】2時間
コンピュータはどのように情報を処理しているのかを調べる。
【事後学習】2時間
学校での学習において，学習者が知識を付加し知識の構造を再構成する仕組みを学術的知見にもとづいて自作の図表を用いて説明する。

第9回

学習行動の生起と維持

知識を獲得し，再構成し，概念化するという活動は，学習者が単独でやりきることは難しく教師による支援が必要である。ここでは行動を生起し維持する過程としての動機づけ（教科書pp.88-93），態度（教科書pp.72-75）といった学習行動を支えるメカニズムを概略的に捉え，教師の支援のありかたを検討する。
【事前学習】2時間
学習に対する「やる気」はどのように生起し，維持されるか，自身のこれまでの経験をもとに考える。
【事後学習】2時間
教科書pp.178-181を読み自己調整学習理論と今回の授業との関連をまとめる。

第10回

学習評価（オンデマンド）

学習評価は，生徒の学習への取り組み方にも影響することが，多くの研究で明らかとなっている。目標・診断・評価（教科書pp.84-87），学力テストの実施法（教科書pp.202-203），指導要録・通知表・内申書（教科書pp.204-205），テストの統計的基礎（教科書pp.206-211）の各内容を踏まえ，成績をつけるだけにとどまらず，生徒が主体的に学習に取り組めるようにするための学習評価の方法を検討する。
この回はオンデマンド講義です。講義動画の在処は授業中に指示します。
【事前学習】2時間
目標・診断・評価（教科書pp.84-87），学力テストの実施法（教科書pp.202-203），指導要録・通知表・内申書（教科書pp.204-205），テストの統計的基礎（教科書pp.206-211）を読んでおく。
【事後学習】2時間
講義動画の内容と第9回の講義内容との関連をまとめる。

第11回

教授学習過程研究の知見を踏まえた指導行動(1)

ノートを取らせる，指名や発問をする，板書をするという行動は授業中に教師にがとる代表的な指導行動である。ここでは学習方略の活用（教科書pp.190-193）とこれまでの講義内容を参照しながら，ノートの活用（教科書pp.194-195），指名と発問（教科書pp.212-213），黒板の活用（教科書pp.214-215）のいずれかの内容について，それぞれの効果的な方法の理論的な説明を試みる（グループワークを予定）。
【事前学習】2時間
ノートの活用（教科書pp.194-195），指名と発問（教科書pp.212-213），黒板の活用（教科書pp.214-215）を読む。
【事後学習】2時間
グループワークの課題を完成させる。

第12回

教授学習過程研究の知見を踏まえた指導行動(2)

第11回のグループワークの内容を発表する。
【事前学習】2時間
グループワークの課題を完成させる。
【事後学習】2時間
ノートの活用，指名と発問，黒板の活用の効果的な方法を示し，それらが効果的である理由を学習者が知識を付加し知識の構造を再構成する仕組みにもとづいて説明し，深い処理をうながす思考支援となりうる学習指導の特徴を教育心理学の見地から合理的に述べる。

第13回

誤概念の修正

「山頂の山小屋で売られている缶ジュースの値段が高いのは運び上げるコストがかかるから」というのは経済理論に対する誤概念の代表例である（正しくは値段が高くても買う人がいるから，である）。誤概念の修正は教科学習の重要な一部分を占めることを踏まえ，社会科における誤概念の修正（教科書pp.234-235）の具体的な方法を検討する。
【事前学習】2時間
社会科の学習内容に関する誤概念を収集する。
【事後学習】2時間
理科における動機づけの可能性（教科書pp.232-233）の内容を社会科に置き換えて端的に説明する。

第14回

批判的思考における他者との協働

学校での学習の特徴は，教師の指導のもとで他者とかかわりながら学ぶというところにある。特に批判的思考には他者との協働が重要であると考えられている。ここでは探究力と創造性の獲得（教科書pp.68-71）における他者との協働が果たす役割と，他者との協働が促進される集団づくりのありかた（教科書pp.218-219）を検討する。
【事前学習】2時間
教室で授業を受ける場合と，一人でオンデマンド授業を受ける場合とでは，授業の受け方がどう異なるか考える。
【事後学習】2時間
多くの教育心理学のテキストでは協同学習を詳述しているが，この教科書はそうではない理由を考え説明する。

第15回

生徒の発達的特徴，個人差，学習活動が展開される環境の違いを踏まえた効果的な学習活動の計画と実施

これまでの授業で扱った内容を，統合的にとらえなおす議論を行い，発達段階を見通し個人差を考慮した学習活動を，実証的知見を根拠とした理路の通った説明にもとづいて計画・実施するための考え方として再構成する。
【事前学習】2時間
適性処遇交互作用とは何かを教科書と講義の内容に沿って，研究事例を取り上げながら説明し，「発達段階を見通し個人差を考慮した学習活動を，実証的知見を根拠とした理路の通った説明にもとづいて計画・実施」する際に適性処遇交互作用を考慮することの教育心理学的意義を合理的に述べる。
【事後学習】2時間
これまでの講義で扱った内容を授業づくりにおける授業構想（教科書pp.94−96）にどのように反映させるかを具体的に説明する。

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